2022年10月号 第440号
仏の種を植えましょう
人間の記憶というのは五官がなにかしら特別な刺激を受けることによって蘇ってくるものです。五官というのは人間が持っている五つの感覚器官のことです。すなわち視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚のことで、仏教ではこれを五根といいます。
昔、NHKのテレビ番組に「ひょっこりひょうたん島」という連続人形劇がありました。あの番組の主題曲を作詞したのは井上ひさしという劇作家です。
最近、この井上ひさしさん(故人)の書き残したエッセイが三冊の本になって刊行されましたので本屋さんで買い求めて読んでいましたら、こんな一文が出てきました。
「名残りおしいはお互いさ、涙は門出に不吉だよ」という冒頭を持つ三橋美智也の『お花ちゃん』を聞くと、当時のすべてがありありと目の前に立ちあらわれてくる」と。(『井上ひさしエッセイ・セレクション』Ⅱ岩波書店)
さて、あなたはどんな歌、どんなメロディを聴くと、どんな思い出、光景が目の前に立ちあらわれてきますか。
佛立宗のご信者ではなく、信仰にさして興味、関心があったわけではなかったが、知人に誘われて佛立宗のお寺を訪ねたところ、拍子木を打ちながら御題目を唱えるご参詣者の姿を見て、小さい頃のことを思い出し、懐かしさを感じて入信、今は熱心なご信者になられているという方を存じあげています。
この方は昔、ご近所に暮していた佛立宗のご信者(お年寄りの女性)が家で拍子木を打ちながらの御題目を唱える音声によって御法との下種結縁を受けていたのです。
なんとなくうかと心に
きくものの
しらず仏の種をうえけり
と開導聖人は御教歌に詠まれています。
家族、知人、友人といった縁ある方たちに五官、とりわけ聴覚を通して御題目口唱、御法門聴聞による下種結縁の機会を与え、時を経ようとも当時のすべてがありありと目の前に立ちあらわれてきて、ご信心に目覚めていただけるよう心がけましょう。